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伊藤 洋和
Ito & Tay Associates
Managing Director
財政問題、本当の構図
はじめに
...... 2006年 7月に、日本の財政を立て直すための今後5年間の財政運営方針である「経済財政運営の方針」(=骨太方針2006)が決定されました。 2011年度に基礎的財政収支(=プライマリー・バランス)を均衡させるべく、2011年度の財源不足額16.5兆円のうち11.4兆円(69%)から14.3兆円(89%)を歳出削減で捻出し、残りの2.2 - 5.1兆円を消費税などの増税で賄うという内容となっています。
財源不足の7 - 9割を財政削減努力によって減らすという方針に、これでやっと日本の財政も在るべき方向に動き出したと見ている方も多いと思いますが、私は逆に日本の歳出構造の抜本的な変革の可能性がなくなったことで10年後の日本の衰退がこれで決まったように見ています。
「骨太の方針2006」の決定を伝えるメディアは、“あとはいかにこの方針を実行に移すかが問題”という観点の論調ばかりでした。 しかし財政の将来を見据えたならば、今後日本が急速に人口減少してゆくなかでどうすれば経済を縮小させずに済むのかという観点から長期的な視野での抜本的な歳出のリ・アロケーションが必要であったのに、現在の財政枠組みの中での小手先の削減案となっている!と指摘して然るべきでした。 日本のメディアの力も地に落ちたものだと感じざるを得ませんでした。
「骨太の方針2006」は今後5年間の各省庁の予算配分を実質的に制約することになります。
逆に言えば各省庁は指針どおりに予算を削れば文句を言われないということを意味します。
財政破綻を回避するためにもっとも重要なポイントは長期的に経済成長を維持することですが、今からの5年間は削減額目標を達成することが主眼になり、各省庁が既得権と結びついている予算額をさらに削ることで長期的な経済成長のための予算額を大きく伸ばす行動にでることはないでしょう。また組織を根本から変革し効率的な政府機構を作る動きもまず期待できません。将来の厳しい経済環境を憂慮し、その対策として今こそ打っておくべき施策を棚上げしてしまったことは、将来に大きな禍根を残すことになると思います。
小泉、安倍、福田と政権は移りましたがが、現在の財政再建の道筋は「骨太の方針2006」が唯一の基本政策になっております。 衆参のねじれ現象からか、最近の各論における対応を見ていると、老人医療費負担増の凍結など弱腰の方向に進んでおります。 また、たとえ次回の衆議院選挙の結果により民主党が政権をとったにしても、国民の顔色をみて進めるという政治の流れは変わらないでしょうから、2011年までにこの「骨太方針2006」よりさらに踏み込んだ抜本対策が講じられる可能性は、ほぼないでしょう。
財政危機は硬直的な日本の政治・社会機構を根本から変革するための最後のチャンスであったと思うのですが、骨太の方針で財政が健全化するという幻想を国民に植え付けてしまったことで、政治家はそのチャンスの芽を自ら潰してしまったのです。
「骨太の方針2006」の欺瞞
...... 10兆円を超える歳出削減額の方針で、これまでとは規模の異なる歳出削減が行われるという印象を与えていますが、骨太方針2006の実際の姿は、5年間で6.6兆円から9.5兆円の歳出拡大であることを理解できた人はどれだけいるでしょうか。
骨太方針の実像を正しく理解していただくために、少し詳しく説明しましょう。
まずプライマリー・バランスとはどういう数字かを説明します。
プライマリー・バランスとは、借金の金利負担を除いて収入と支出が均衡している状態を指します。単純に考えると国と地方の税収と、国と地方の一般会計歳出が同額になることと言えそうなものですが、国の財政はそんなに単純ではありません。
政府の経済活動は、中央政府会計、地方政府会計だけではなく、特別会計・事業会計の一部も含まれてくるので、政府の財政事情をより正確に見るためには、中央政府・地方政府以外の収支も統合する必要があります。
その計算方式が 国民経済統計(SNA)という手法です。
政府が目指しているプライマリー・バランスとは、この国民経済統計上の財政収支均衡のことであり、2006年度でいえば、政府が想定(確定値はまだ出ていない)している14兆円の赤字をゼロにするということです。
次に「骨太方針2006」の内容を数字で見てみましょう。
SNAでの2006年度の歳出額が107.3兆円、これが自然体(現状から何も努力をしない)の場合2011年度に128.2兆円に増加する。 一方2011年度の歳入額(税収のみならずSNA計算で政府最終に計上されるすべての収入)は111.7兆円であり、プライマリー・バランスを達成するためには、その差である16.5兆円を歳出削減と増税で賄う必要があり、この16.5兆円のうち11.4兆円から14.3兆円については歳出額の削減により捻出するというのが骨太方針2006の要旨です。

しかしこのビジョンははっきり言って子供だましです。
なぜなら11.4兆円から14.3兆円の削減とは、2011年度の架空の歳出規模からの削減額であり、現状の2006年度から見れば逆に5年間で6.6兆円から9.5兆円の歳出拡大だからです。確かに社会保障の歳出については高齢化によって自動的に増えてしまう金額がありますが、その金額は年間0.8兆円、5年で4兆円であり、仮にその金額を差し引いて考えても2.6兆円から5.5兆円の歳出拡大の方針なのです。
もともと不足額16.5兆円を算出する基礎となっている2011年度の歳出規模の算出が作為的です。 例えば、人件費については2006年度の30.1兆円から2011年度の35.0兆円への4.9兆円の自然増となっていますが、この計算は公務員数が変わらずに給与額が想定名目成長率と同じ年間3%で増えるという想定からきています。 最終的な歳出削減額を大きく見せるためにかさ上げした、と言われても仕方のない数字ではないでしょうか。
また、沖縄基地再編の費用の約3兆円もここでは全く反映されていません。
6.6兆円から9.5兆円の歳出拡大になる骨太方針2006は、今後の歳出金額を多少抑えるといった程度の深さにしか切り込んでおらず、各省庁もすでに達成のめどをある程度つけていると思われます。その意味では、骨太方針2006は各省庁に今後5年間、今以上の努力はしなくてもよいとお墨付きを与えたようなものなのです。
経済成長頼みの危うさ
...... さて、それではこれだけ甘い分析に基づいた、ちょっとした歳出抑制でどうして2011年度にプライマリー・バランスを達成するという絵が描けるのでしょうか。 それは税収の伸びを非常に大きく想定していることです。
骨太方針2006の前提となっている経済成長率の見込みは名目で3.0%となっており、一方、税収弾性率(経済成長が1%伸びた場合の税収の伸びを示す)を1.1%としています。 結果として5年間の税収等の伸びを18.4兆円(伸び率19.7%)という巨額な想定をすることによってプライマリー・バランス達成の絵を描いているのです。
骨太方針2006を別な方向から眺めると、2006年度の14兆円の赤字を今後5年間の税収の伸びを18.4兆円と見ることで黒字化し、さらにあまった4.4兆円と、増税予定分の2.2-5.1兆円の、合計6.6-9.5兆円の予算配分を各省庁に割り振ったとも言えるのです。
この見方からすると、増税予定分は、増税をしなければプライマリー・バランスが達成できないから組み入れたのではなく、各省庁・地方がある程度の歳出拡大を可能にする原資とするために組み入れたと理解できます。
さて、ここで大きな問題は、政府の予測どおり5年間で18.4兆円もの税収が増えることになるのかどうかです。 下記表は、2006年度の国税税収を100とした場合の過去の税収の指数です(2004年度から3年間の地方への移転税収額は補正済み)。
バブルの絶頂期である 1990年の税収が125です。そして骨太方針での2011年度歳入はこのレベルに近い120まで税収が増えるという想定なのです。
2001年からの税収の伸びは、企業のリストラ効果による法人税に伸びと、景気上昇による税収の伸びが重なったものです。そしてその背景には中国の急激な需要増による設備輸出などの要因が少なからず働いています。
2008年の北京オリンピック後に景気が減速する可能性はないのでしょうか。
史上最長といわれる景気循環の波が今後5年間反転しないと言えるのでしょうか。
3%の名目GDP、18.4兆円の税収等の伸びという前提はそのようなケースを想定してはいないのです。
税収というものは、過去のデータを見れば分かる通り景気の変動によって振れの激しいものです。 不確定要因である税収の伸びに財政再建のほとんどの原資を頼っている骨太方針2006は、楽観主義者の財政再建策なのです。
プライマリー・バランス達成後に破綻する?
...... 5年後にプライマリー・バランスが達成するかどうかは、このまま景気拡大が続き、政府が想定している名目GDP3%の伸びが実現するかどうかにかかっています。もし中国も失速せず、拡大基調が長期間続いている世界経済に変化がなければ、あるいは想定どおり 2011年度にプライマリー・バランスは達成されることになるかもしれません。しかし10年という視点で分析すれば、財政が破綻する可能性は急速に増してゆくことになると判断せざるを得ません。
日本の財政が、破綻の可能性が無い状況まで改善させるためには、 3つの通過点を通らねばなりません。
.........................1.「プライマリー・バランス(基礎的財政収支)の獲得」
...................................税収等の歳入で一般歳出が賄われる状態。国公債の利払い分だけ借金は増える。
........................2.「国公債の利払いも含めた財政収支の均衡」
...................................借金の金額は増えなくなる。ただし金利が上がればまた借金は増え始める。
.........................3.「安全圏までの国公債残高の減額」
...................................景気要因、金利の変動を考慮しても借金が増えないところまでの借金の減額。
「安全圏までの国公債残高の減額」は、どこまでの金利を想定するかで、どれだけの債務削減が必要か大きく変わってきますが、政府債券のGDP比率を欧米諸国並みにすることを目標とした場合、400兆円もの借金を削減しなければならないことになります。400兆円の債務削減は、金額が大きすぎてさすがに政策目標にはできないでしょう。
一方、「国公債の利払いも含めた財政収支の均衡」は、国公債の消化余力からしても10年程度でめどをつける必要がある指標であり、本来、今の時点で国際経済収益力を維持するための長期的な施策を実施していかないと間に合いません。しかし「骨太方針2006」が、そのような視点での変革の絵を提示しなかったことで、すでに日本経済の10年後の失速は自明となりつつあります。
下記の図は、今後の日本の生産人口(15-64歳人口)の予測です。特殊合計出生率を中位と想定した場合のデータですが9年後の2015年の生産人口は、2005年より8.6%減り、2025年には15%も減ることは確実です。(中位推定の2005年の特殊合計出生率は、1.31ですが最近発表された実績値は1.25であり、実際の生産人口はさらに厳しい数字となる)。

人口が減る中でGDPを成長させるためにはそれ以上の生産性(=富を生み出す力)の向上が必要ですが、10年で20%を超える生産性の向上(人口減相殺分+税収確保の経済成長)は、経済を牽引する新しい産業の創出や、より生産性の高い産業へのシフトがドラステックに起こらなければ可能となるものではありません。しかし日本は、金融やITなどのもっとも富を生み出している産業では全く世界で太刀打ちできておらず、「製造業」に頼る産業構造から脱皮できる兆候は見られません。そしてその頼みの製造業についても、日本の地位は揺らいでいます。
例えば、かつて日本の花形産業であった半導体は戦略的経営に長けている海外企業に完全に取って代わられました。 また、経済成長を引っ張ることができるような製品とは、携帯電話や携帯端末といった分野が代表的ですが、これらの分野ではハードにおいてもプログラムソフトにおいてもすでに日本の優位性はほとんどありません。
日本人は、「良い物は正統な評価を受け、適性な価格で取引されるものである」という意識が強いため「良いものを作り続ければよい」と単純に考えがちです。しかし稼げる製品のライフサイクルが短くなっている中で、製造業も「マーケット戦略主導型」でないと大きく成長できなくなっているのですが、日本の企業には世界市場を相手に戦略的なマーケット戦略を立て、製品を高く売ってゆく人材が圧倒的に不足しているのです。
そして、製造そのものの優位性についても、数学や論理的な思考ができなくなっている現代の子供達の学力、ニート現象に現れている労働意欲の低下を考え合わせると、10年後にはほとんどの製品領域で他の諸国に肩を並べられていることでしょう。
たしかに様々な分野の先端技術の中には他国の追随を許さないものも多く存在しますが、それらの技術を国の経済を引っ張る力に結びつけてゆくためには、豊かな発想力を伴う商品開発力や世界市場を相手にした高度なマーケッテングといったサービス分野の産業を育てなければなりません。そしてまさにこの分野が日本人・日本企業が苦手とするところなのです。
2011年度にプライマリー・バランスを達成することができても、すでに積み上がった借金である約1000兆円の金利分の赤字が増え続けることになります。
平均負担金利が現在とほとんど変わらない2%でも毎年20兆円、主要国の現在の国債金利並みである4%で計算すると実に毎年40兆円という気の遠くなるような赤字額になります。
骨太方針2006で、今後5年間、長期的な経済成長のための変革に手をつけないことが確実になったことで、日本経済が借金額を減らすところまでの長期的な成長は、望み薄です。よって 景気が拡大基調である限り財政破綻が現実のものとなることはないでしょうが、景気の流れが変わり日本の産業構造や人口構造では金利負担に打ち勝つ経済成長は不可能であるとの認識が広がるとその時点で財政は一気に行き詰る可能性があります。
それは仮にプライマリー・バランスが達成されたとしても、その後いつでも起こり得ます。1000兆円という借金額はそれだけ巨額なのです。
(財政破綻リスクの分析は、経済レポート「国公債の消化能力からみる財政の行き詰まり」でより詳しく説明しております。 是非 ご一読ください。)
財政問題はキャシュ・フローの問題
...... プライマリー・バランスが達成されても、その後に財政が破綻するという根拠をもう少し詳しく説明しましょう。
まず、日本国の借金のGDP比を、他国と比較したグラフ1を参照ください。
日本の政府債務残高はGDPの170%と、飛びぬけていることが読み取れます。
もう一つこのグラフで気付くべきポイントは、線の角度です。 政府債務のGDP比が日本の次に大きいイタリアは119%となっていますが、近年は増えていません。一方、日本の借金は急角度で増えています。 政府債券を買っている資金は、安定的なインカム・ゲインを求める資金ですので、大部分は償還されても借り換えのための新規国債の消化に廻ります。 しかし借金の絶対額が増える場合は、新しい消化原資が必要となるため、線の角度が立っていると財政が行き詰る可能性が一気に高くなるのです。

財政問題とは、国の資金繰りの問題です。 借金というものは、個人の借金でも、会社の借金でも、お金を貸してくれる人がいる限りいくらでも借金を増やすことができ、破産することはありません。 国の借金も同じことで、仮に国債残高がGDPの300%にまで膨れ上がっても、発行される国債を買ってくれる人がいれば、破綻しません。
つまり、財政破綻リスクは、借金の額の問題ではなく、キャッシュ・フローの問題なのです。
グラフ2は、個人の金融資産の純増額(預金と保険の金融資産の純増)と、国債発行額を比較したグラフです。 そして、このグラフが、日本の財政問題の本質を理解する上で最も重要なグラフです。

日本の国公債は、海外投資家も、日本の民間企業もほとんど買いません。 国民の預けた預貯金や保険積み立て金が、郵便局や銀行や保険会社の運用資金として間接的に国公債を消化してきたのです。 日本では、この国公債消化のための資金供給システムが完璧に機能していたため、グラフの青い線がオレンジの線より上にある限りは、どれだけ国債が発行されようが間違いなく消化できるという状況が生まれていました。つまり、この資金供給システムが政治家の“日本国の散漫経営”を許してきた温床だったのです。(注:厳密には、地方債の発行額から国との重複分を除いた金額分だけオレンジのラインはさらにちょっと高いところにあります。)
国債の発行額は、バブル崩壊後に急速に増えてゆきましたが、1998年度までは個人金融資産の純増額以下の金額でした。 しかし1999年度に逆転し、2003年度には、34.5兆円に対し、個人金融資産の純増額は5.4兆円と国債発行額の6分の一まで激減しています。 国公債の消化を支えてきた資金供給システムは、すでに全く機能していないのです。
郵政民営化法案が可決されたのも、この観点から見れば、この資金供給システムにおける郵便局の役割がすでに無くなったからこそ民営化されたのだ、という側面が見えてきます。
個人金融資産の純増資産が激減してしまったため、ここ数年は、国公債のほとんどはすでにある資産が国公債という資産に置き換わることによって消化されています。 イメージ的に言えば、“1998年までに貯めた蓄えを切り崩しながら放蕩生活を続けているような状況”なのです。
グラフ3は、国公債の消化余力を分析するために、ほとんどの国公債の直接所有者である金融機関の金融資産において国公債がどの程度の割合まで高まっているのかを示したグラフです。

青色の線は公的金融機関、緑色の線は民間金融機関において、それぞれの金融資産の内、現金・預金・貸出金を除いた金融資産に占める政府債券+事業債の割合を示しています。
公的金融機関は、2003年度末で90.3%と、ほとんどが、国公債という資産になってしまっています。 すでに公的金融機関の資産の中で新たに発行される国公債券を消化できる資産はほとんど残っていないのです。
残る消化能力は民間金融機関の資産ですが、特に1997年以降、公的金融機関のあふれた水を吸収するがごとく公的債券の割合が高まっており、2003年度末でほぼ50%(47.3%)となっています。
仮に2003年度末の資産でさらに150兆円の国公債が消化されたとすると、その割合は、66%となります。 全民間金融機関が、現金・預金・貸出金を除くの資産の2/3まで国公債を買い進めるとは到底思えません。
マクロ的な資産ストックの内容を分析すると国公債の消化余力は思いの他少ないことが分かります。 今後、財投計画の残高縮小で多少の資金が国債消化に廻ったり、政府系金融機関の貸し出し金を絞り込んだり、外貨準備を減らすことで数十兆円規模の国債消化能力を創出することができるでしょう。 しかしこれまで国公債の消化を支えていた個人資産の純増額が大きく回復しないかぎり、財投残高、政府系金融機関、外貨準備の縮小を加味しても国公債の消化余力はせいぜい200兆円から250兆円程度しかないと見るべきであると考えます。
つまり いくらプライマリー・バランスを達成しても金利負担によって借金が増えてゆく限り必ず財政は破綻する定めであり、毎年20兆円規模の赤字であってもそのタイム・リミットはせいぜい十数年しかないということです。
財政破綻に乗じた日本乗っ取り
...... 国債が消化できなくなり、財政が行き詰ると何が起こるでしょうか。 超円安、超インフレにより、国民の預貯金の資産価値が激減するといいますが、当然ながらそれは財政破綻の一面だけの話です。 多く語られていないことですが、国全体で見た場合の重大で、且つ屈辱的なインパクトは、日本の国富のかなりの部分が海外投資家の手に落ちるということです。
財政が行き詰まり、円の信用が失墜すると、円は国際決済通貨としての役目を果たせなくなります。もし政府が比較的早期にデノミを成功させ、インフレを押さえ込むことができたにしても、新円が国際通貨としての信用力を得るまでには少なくても数ヶ月の時間がかかるでしょう。 円が減価し、信用力を失うことは、マネーサプライが極端に少なくなることと同じ効果をもたらします。 円が決済通貨としての機能を回復させるまでの間、他の決済手段を持っていないと経済活動は行えません。
国債が無価値になっても、円がどれほど減価しても、日本の工場は相変わらす設備も、働き手もおり、材料さえあれば生産を続けることができますが、石油を初めとする原材料は外貨でないと買えなくなります。 それは海外に外貨資産を持っているか、いないかによって企業の運命が分かれることを意味します。
十分な外貨資産を持っていない企業は生き残りをかけて資金の調達をせざるを得なくなり、多くの企業資産を格安で海外の企業や投資家に売り払うはめになるでしょう。 企業の株だけでなく、土地や、工場や、特許や、ありとあらゆる資産が海外筋の投資対象となるはずです。
ロシアの財政は1998年に破綻し、その後のハイパー・インフレで数年に渡って国民生活が困窮しました。 ロシアが1998年にデフォルトした時、海外投資家が“ロシア買い”に走らなかったのはマフィアが経済を押さえていたり、賄賂なしでは企業活動もままならないといった、国の経済システム全体が腐っていた状況があったからです。
しかし日本の事情は全く異なります。
財政問題は政府の“散漫経営”の膿がたまった結果であり、政府部門、金融部門を除いた日本経済は健全です。 また日本の民間企業は多少国際競争力が落ちてきているといっても、まだまだ世界に通用する技術、労働力、生産設備、を持っています。 一時的に経済が沈滞するにしても、日本経済が復活することは間違いないので、財政破綻の際の日本は、投資対象としては完全に “買い” なのです。
お金は経済の“血”ですので、財政破綻後にお金が日本経済に流れ込まないと経済が長らく沈滞することになります。 発展途上の破綻国で国民生活の困窮が長く続くのは、借金が自国通貨建ではないことと、国自体に投資価値が無いため外資が入ってこないからであり、この点では、海外に所有権は移ってしまうにしろ、外資という“血”が流入する日本は、長期に渡って経済が死んだようになることはないでしょう(経済を蘇生させるためには、海外からの資金流入はある程度は必要だということです)。
逆に言えば、だからこそ日本の資産の多くが、一挙に外国人の手に渡るのです。
海外資産積み増しの必要性
...... 海外勢に日本経済を乗っ取られないためには、財政が破綻する前にできるだけ海外に外貨資産を積み増しておくしか方法がありません。 特に多くの従業員を抱える事業者にとっては、会社を二束三文で売り渡すことが無いように、すくなくとも会社が半年間回るだけの資金を海外に確保しておくことが、現実的な対策になります。 個人投資家の方は、もし財政が破綻したら、海外勢に負けじと、日本の企業に投資することです。 その日本勢の資金が新しい血となって日本を蘇生させることになるのです。
キャピタル・フライトのリスクを理解しつつも、私が海外での資産保全、資産運用のお手伝いをしているのも、財政問題の奥底にこのような構図を見ているからです。
日本人の中には、海外に資産を移すという行為に対して、「抜け駆けをして自分だけ生き残るつもりか!」、といったような反応をする人がいます。 しかしよく考えていただきたいことは、欧米列強による植民地時代からの歴史を解説するまでもなく、 また金儲けという価値基準だけが是とされる現代の米国型資本主義の非情さを改めて紹介するまでもなく、 日本が恐慌に見舞われたときに助け合って何とか日本を復興させようと奮闘する人間は、世界中のどこを探しても日本人しかいない、ということです。
財政改革の正しいアプローチは、政治・行政改革
...... 財政危機の原因は、経済の問題ではなく、政治の問題です。
ですから、財政再建のための正しいアプローチは、まずは経済システムをどうするかという視点ではなく、政治システムをどうするのかという視点で考えるべきなのです。
民間企業が経営危機に面したとき、コスト削減よりも重要な改革は、いかに社員の士気を上げて企業の効率・競争力を回復するかですが、国の財政再建でも同じことです。
士気を上げなくてはならない日本国における「社員」とは、「国民」ではなくて「官僚」や「公務員」です。
日本の政治を語るとき、官僚制がすべての元凶だという論調をたびたび目にしますが、しかし官僚による国家運営体制に代わる統治システムの選択肢が今のところ無いわけですから、まずどうしたら官僚・公務員が本気になって財政再建に取り組むのか、そしてどうしたら日本の継続的な成長がなければ財政は破綻するという認識を共有できるのかをとことん考えるべきです。
日本の官僚は、特に若い官僚は、有能で、仕事熱心で、愛国心をもっています。
マスコミに散々たたかれ、熱意を失った上司や、古い慣習や、硬直的な組織に疲れ果てている人も多いでしょうが、活躍できる環境を整えれば、改革の推進力は引き出せるのです。
重要なことは、日本の将来ビジョンを共有し、改革の根底に流れる核心を、官僚をはじめとする行政の構成員が理解し自分の判断基準とすることであり、また、そのような判断基準に従った行動が正当な評価を得られるように組織改革をすることです。そのような改革ができなければ、日本の成長を後押しする効率的な政府にはならないでしょうし、逆境のなか、長期的に日本の経済が安定成長できるとは思えません。
今の日本に一番求められているのは強力なリーダーです。
それも、サッチャー元英国首相のように、日本の将来を見据えた確固たるグランド・デザインに基づいて、多少独断的でも強力に政治機構の変革、社会の変革、産業構造の変革を推し進められる人材です。
しかし、その言葉がむなしく響いてしまうほど、日本の政治はどうしようもない袋小路の奥深くに入り込んでいます。
(2007年 10月 修正再稿)
............グラフのデータ・ソース
............◆グラフ1: 生データ「Graph1-Data.xls」 財務省資料より引用、
........................財務省「日本の財政を考える」(http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/sy014.htm)を参照ください。
............◆グラフ2: 生データ「Graph2-Data.xls」 財務省資料および内閣府、国民経済計算(93NA)より作成、
........................データ詳細は、「国公債の消化能力から見る財政の生き詰まり」のデータを参照ください。
............◆グラフ3: 生データ「Graph3-Data.xls」 財務省資料および内閣府、国民経済計算(93NA)より作成、
........................データ詳細は、「国公債の消化能力から見る財政の生き詰まり」のデータを参照ください。
............◆グラフ4: 生データ「Graph4-Data.xls」 「長期金利の動き」( http://www31.ocn.ne.jp/~j_saijo/zaito.htm)
● 財政問題をより深く考えたい方は、プライベート経済レポート
...... .「国公債券の消化能力から見る財政の行き詰まり」 を是非 ご一読ください。 ⇒⇒
● 経済コラム
.........「資本主義と経済の粘性」 も読んでみてください。 ⇒⇒
● 海外での資産保全に興味のある方は、
.........「オフショアでの資産運用の基礎知識」 をご覧ください。 ⇒⇒
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