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伊藤 洋和
Ito & Tay Associates
Managing Director

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国公債券の消化能力から見る財政の行き詰まり


序論


国・地方政府の長期債務残がGDPの150%を越える未曾有な状況となっていますが、日本の財政が十数年で破綻する可能性がどの程度あるのか、自分なりの認識を持っている人は極少数でしょう。
国民は、財政がすでに危機的状況となっていることを理解はしています。 しかし “個人金融資産が1400兆円もあるので、そう簡単に破綻するはずがない”などといった短絡的な意見を鵜呑みにして、ほとんどの人は自分で財政の実態を見極めようとは考えません。財政破綻した場合のインパクトがとてつもなく大きいにもかかわらず、当事者意識がどうしてここまで薄いのか不思議です。

財政破綻という事態は天災ではありません。 また歴史的に見れば世界で頻繁に発生しています。
1998年に自国通貨建債券でデフォルトを起こし、2000%を越すハイパーインフレに見舞われたロシアは、当時US150-200億ドルの貿易黒字を稼ぎだしていました。 しかしその資金が債券消化に還流しなかったためにロシア政府はデフォルトを宣言せざるを得ませんでした。 
現在の日本は世界有数の貿易黒字国ですが、ここ数年で国債消化に還流する資金が激減しています。 当時のロシアの状況に似てきているのです。
ロシアでは財政破綻によるハイパーインフレで、ルーブルの対US$レートは、5000分の1になりました。 日本では同じことは起こらないと主張できる根拠はどこにもありません。 
まして当時のロシアのGDPに占める債務残高は67%でしたが、日本のそれはすでに150%を超えています。

本稿では、1980年頃よりの各経済部門の資産状況を巨視的に分析することにより、財政問題をできるだけ単純な図式で理解し、政府債券はすでに容易に消化できない状況となっていることを示すことで、財政が破綻へと向かう可能性を読者に現実として理解してもらうことを目的としています。
国公債は、数年前と違って簡単に消化できる状況ではなくなっており、財政再建が一層加速しなければ10年程度で行き詰る可能性があることを読み取ってください。


本論

1.国の借金金額

財務省が発表している2005年度末の国および地方の長期債務残高は770兆円です(補正予算後)。
この数字に政府短期証券の債務86兆円や短期借入金債務は入っていません。 また直接的な国の債務ではありませんが、770兆円以外に、将来的に国の借金になる可能性のある債権・債務として、財政融資資金の370兆円のうち特殊法人等に対する融資残176兆円(2005年2月末)、道路公団を初めとする公団や独立行政法人等への政府出資金の48兆円(2003年度末)、政府が支払いを保証している政府以外の債務金額(政府保証債務)の59兆円(2003年度末)などがあります。
この貸出金や出資金や債務保証のうちどの程度が不良化しているかは正確には分かりませんが、様々な人が独自の方法で計算した結果として、“国の借金はすでに900兆円だ”とか “すでに1000兆円を超えている”、とか言われています。

まずこの恐ろしい金額の借金がどのように積み上がってきたのかを、国債の発行・残高推移を見ることで簡単におさらいしましょう。
2006年度末の国および地方の長期債務残高、775兆円のうち中央政府の長期債務が605兆円、地方政府の長期債務が204兆円、重複分が34兆円です。2006年度末の国債の発行残高は542兆円であり国および地方の長期債務残高の7割程度を占めています。 2005年度はこの542兆円の金利負担だけで8.6兆円の費用が予算計上されています。

表1. に国債の発行金額、残高、一般会計歳出(=一般歳出+国債費+地方交付税+特別補助金)と一般会計税収の推移を示した表です。
国債の発行が本格化したのは1973年の第一次オイルショック後です。それ以前は、財政はほぼ均衡していました。現在の巨額な借金は、たかだか30年程度の間に積み上がったのです。
1970年代に恒常化した財政不均衡は、バブル崩壊前には景気による税収増で10兆円程度のギャップにまで縮まりましたが、バブル崩壊後の税収減と、景気対策という題目での歳出拡大で一挙に30兆円以上に開き、多額の国債残高の金利負担が加わることで、債務増加に歯止めがかからない状況になったのです。(注:2006年度予算で国債残高の伸びが抑えられているのは、財政融資資金特別会計の余剰金、約12兆円での買入消却を見込んでいる事などによる。)

これほどの財政危機を生み出した根本原因は、“税収の落ち込みや景気対策等の必要性から数年の期間は赤字財政が正当化されるにしても、長期的には財政はバランスさせなくてはならない”という当たり前の論理が政治家と官僚に欠落していたため、という一言に尽きます。


2.国の債務に対する債権者
国の債務は当然誰かの債権となっているわけですがが、果たして誰が債権者なのでしょうか。
表2. は、2003年度末時点での国債・財融債、地方債、政府関係機関債、政府短期証券の債権保有者を部門別に集計したものです。
2003年度末時点での国債・財融債、地方債、政府関係機関債、政府短期証券の総額(本論文では便宜上これを国公債=国の借金と呼ぶ)は792兆円にのぼります。この792兆円の債権者の内訳は 金融機関が85%と、そのほとんどを占めており、一般政府が7.4%、非金融法人企業は0.4%、家計は2.1%、海外は3.1%しかありません。 一般政府とは 中央政府、地方政府、社会保障基金の合計ですが、この7.4%(59兆円)のうち87%(51兆円)が社会保障基金(国民年金や厚生保険等の運用組織、や共済組合、健康保険組合など)の資産です。 
一般政府、中央銀行所有分の金額を除いて所有比率を計算すると公的金融機関、および民間金融機関の所有率は合計で90%を超えています。
押さえておくポイントは、国公債債券は、非金融法人企業はほとんど買っておらず、家計・海外も数パーセント程度の所有であり、ほとんど金融機関が直接の所有者となっているということです。

国の借金の直接的な債権者は金融機関ですが、その金融機関にその資金を提供してきた間接の所有者は、家計です。
まず国の借金を消化するための金融機関への資金の流れを理解するために 内閣府が発表した2003暦年末時点の部門別の貸借対照表(表3)を見てください。(年度末ではないので他の資料と多少の差異があることに注意)。

国の借金を消化した資金の原資である民間および公的金融機関の金融負債は2,915兆円ですが、この金額は、言うなれば他部門が金融資産の大部分を預けたお金の合計です。 金融機関はこの2,915兆円の原資の一部で国公債債券を買っています。 この表では国公債債権は“株式以外の債権 796兆円”に計上されており、そして796兆円の資金を金融機関に提供している部門が 788兆円の現金・預金、395兆円の保険・年金準備金という流動性の高い巨額な資産を有している家計なのです。
(注:統計上の“家計”は個人事業者も含む)

ちょっとここで横道にそれます。 表3. では政府一般の正味資産は80.5兆円となっていますが、この数字はそのまま理解してはいけません。 固定資産の価値は実際の市場価値ではないし、不良化している債権がそのまま資産として計上されているからである。 資産を再評価した場合の正味資産は少なくとも200兆円のマイナス、つまり200兆円の債務超過と見られています ( 財務省が発表している「国の貸借対照表(試案)平成14年度版」によると227.4兆円の債務超過。 )。 
当然ながらこれが民間企業であったならとっくの昔に倒産している内容です。

さて、家計と非金融法人企業の金融資金規模は、2対1程度(1452兆円 対 737兆円)なので、国の借金消化に対する貢献度も2対1と考えがえてしまうかも知れませんが、それは間違いです。
国公債債券は当然ながら企業の株式や他の証券と物々交換をして入手することはできないので、金融機関は預けられた資産のうち、現金・預金といった流動性の高い資金で債券を買わなければなりません。そしてその資金は預けたところが流動性を求めない、つまりある程度預けっぱなしにしてくれる資金でなくてはならないのです。

企業が銀行に預けているお金は高い流動性が必要とされる日々の活動資金か、もしくはキャッシュリッチな企業の余剰金です。 大企業の余剰金は企業の財務部などが株式や債券などで直接資金運用する場合が多く、 金融機関が自由に運用できる運用用途制限の無い預金で置いておく金額は少ないと言えます。 家計と違って企業は資金を預金として眠らせては置かないので、企業の金融資産は国公債のような流動性の低い資産を直接買うことは稀であり、MMFのような国債を組み込んだ、金融機関が流動性を保証している金融商品で間接的に多少の消化貢献をしているに過ぎないのです。

もともと企業活動というのは資金を吸い上げるものです。
企業の負債はすべて金融負債ですが、企業の資産は工場や、土地や、生産設備など非金融資産もあるので、当然ながら非金融法人企業は、総体的には預けるお金の総額よりも借りているお金の総額の方が大きくなります。
表4. は非金融法人企業の金融資産残高と金融負債残高の詳細を示しています。 非金融法人企業の金融資産で国公債の消化に廻りそうな資金は、ほとんど‘現金・預金’の部分だけですが、一方金融負債では‘借入金’としてその倍以上の流動性資金を吸い上げています。 企業は総体的に流動資産の供給者ではなく需要者であり、もともと国公債のような流動性の低い資産を消化するプレーヤーではないのです。


3.公的債券消化を支えた資金供給

3-1 資金供給システムの構造
30年以上に渡り発行されてきた国債を初めとする国公債がこれまで日本経済の資金流動性を損なうことなく消化されてきたのは、民間企業が資金の純増を生み出してきたからです。
そして、この純増資産が、給与や配当として家計の純増資産となり、郵便貯金をはじめとする公的金融機関や、一般の預金銀行をはじめとする民間金融機関を通じて国公債を消化してきたのです。

表5.  は家計の金融資産残高の推移を示しています。
これは俗に言う“個人資産1400兆円”の積みあがりの歴史です。
2003年度末の金融資産1469兆円のうち、預金資産と保険資産の合計は1176兆円です。 残りの293兆円は株式や証券などであり、金融機関を通じて再投資することができない資産であるため国公債消化の原資という意味での個人(家計)金融資産は1176兆円と見なければなりません。(293兆円のうち、17兆円は金融機関を通じずに直接家計が買った国公債債権であるが、ここでは無視します。)

家計の預金資産残高と保険資産残高の前年比増の金額(=資産の純増金額)は、1998年度までは毎年の国債残高純増分以上の金額となっていました。 いくら財政が赤字でもそれ以上の純増資金が家計から金融機関に供給されていたいため、政府は消化できるかどうかの心配をすることなくいくらでも国公債を発行できたのです。
恐らくこの資金供給のシステムがなかったなら(例えば、国民が機械的に郵便貯金に金を預けるという行動パターンではなく、米国の様に株や債権で運用する行動パターンをもっていたら)これほど財政不均衡が拡大することもなかったでしょうし、日本の政治家がこれほどの利権政治に走ることもできなかったでしょう。この‘金のなる木’は日本の政治をだめにした温床だったのです。


3-2 資金供給システムの停滞
この資金供給システムは1999年頃から機能不全に陥っています。
預金残高と保険残高の純増金額を見れば明らかなように1999年以降、資産純増金額は激減しています。 2003年度末の資産純増金額は5.3兆円となり10年前の10分の一になってしまいました。

この家計金融資産の残高の変化は、当然ながら預け先である金融機関の資産残高に反映しています。
民間金融機関の資産残高は、株などの証券の価値が大きく振れることや、経済活動の低迷による資産の減少などの要素が大き過ぎることから家計資産の減少の影響をはっきり読みとることは難しいですが、5年間毎の推移を見てみると、バブル崩壊後に純資産増金額は激減し1998年度以降も減少していることが読み取れます(表6. )。 

一方、公的金融機関の資産は、郵便貯金や簡易保険をはじめ、家計の預け入れ資金を運用している金額がほとんどなので、1999年度以降の残高の減少に顕著に現れています(表7. )。
( 表中の“前年比残高増減”の金額は公的金融資産残高合計から融資特別会計の資産金額引いた金額です。融資特別会計とは財政融資資金のことで、郵便貯金などの預託金を再投資(財政投融資)してきた資金です。 融資特別会計の残高を引いたのは、資産だけ見ると大部分が重複するため、より実態に近い金額にするための処理です。)
公的金融機関の金融資産の純増額は1999年度に半減し、以降は大きくマイナスしていることが分かります。 つまり国公債を消化するための資産純増が2000年度以降ほとんどないのです。

ではなぜ1999年度以降、家計資産金額は伸びなくなったのでしょうか。
日本経済は1991年頃からのバブル崩壊後も1998年頃までは、それまでと変わらないペースで増えています。 バブル崩壊後に家計資産の伸びがすぐに落ちなかったのは、日本では賃金コストの圧縮には時間がかかるという事情に見出すことができます。
日本の企業は簡単に社員を首にしません。 自主退職を募った場合は手厚い退職割増金を支給します。 また賃金体系を変更しても変更直後に給与が大きく下がらないように経過処置を設けたりします。 景気低迷から資産増金額が頭打ちになるまでのタイムラグは企業が時間をかけて変革した人員の圧縮、賃金体系の変更がやっと1999年頃から一挙に効果を現し始めた結果なのです。


3-3 資金供給システムが復活しない理由 
さて景気が上向き、企業の収益が回復したらかつてのように家計の収支が大きく改善し、また家計金融資産が積み上がっていくでしょうか。それはあまり期待できません。
その理由は、まず企業を取り巻く環境の大きな変化です。 M&Aによる業界再編や企業活動のボーダレス化による企業競争の激化、ITによる管理コスト削減競争、製品のライフサイクルの短期化、高い社会的信用の要求と信用失墜という経営リスクの増大、といった変化は経営にスピードと高い効率を強いています。 経営者は安穏と経営していれば簡単に足元をすくわれてしまうという危機感をもっているため利益を社員に配分せずに内部で留保する傾向が高まっています。
そして一時雇い、時間雇いの労働力が容易に調達できるようになったというような労働市場の変化がこの流れに拍車をかけています。
留保された利益は、いずれは企業活動に再投資されるか、株主配当と言う形で使われるか、自社株買いに使われることになります。 そのうち自社株買いや株主配当された資金は、高利回り商品に再投資される割合が高いので、もしその資金が被雇用者所得になった場合に金融機関を通じて国公債消化に貢献する割合にくらべると、消化能力としては数分の一になってしまうと思われます。

賃金の世代間格差の問題もあります。 日本の被雇用者賃金は、まだまだ旧賃金体系の恩恵をうけている熟年層に厚くなっており、熟年層が退職してゆくことで家計に移る資産は、団塊の世代の退職金による増加がピークを過ぎれば大きく減ってゆくことになります。 また個人の金融資産は高齢者が集中的に所有していますが、その高齢者の資産が次の世代に受け継がれるとき、若い世代によって一部は消費に回り、一部は株や投資信託などのより積極的な運用へとシフトするため国債の消化能力としては低減します。

家計の預金離れも影響します。 インターネット取引で、個人の株式投資はすごい勢いで増えていますが、この傾向は今後も強まるでしょう。国民は将来に不安を抱えているので貯蓄性向が大きく落ちることはないでしょうが、銀行や郵便局の預金になる割合は確実に減ってゆきます。

そして致命的な要因が労働人口の減少です。 総務省の発表している人口推計によると2015年、2025年の生産人口(15-65歳人口)は2005年に比較しそれぞれ8.6%、14.5%の減少となると予測されています。 就労者の人口が減る分に、就労者一人当たりの収入の増加が見合わなければ全体としての家計所得は当然減ります。

このような状況を考慮すると、仮に今後景気が回復して給与のベースは上がってくるとしても、長期的に見れば預金・保険といった間接的に国公債を消化する資金は大きく増えることは期待できないのです。
‘金のなる木’はすでに枯れてしまったということ、つまりかつて国公債消化を支えていた個人の純増資金からの供給がすでに止まったという事実を認識することが、日本の財政問題の深刻さを理解するうえで決定的に重要です。


4.資産シフトによる公的債券消化の限界

借金というのはどれほど積み上がっても貸してくれる人さえいれば行き詰ることはありません。 貸し手がいなくなった時点で一気に行き詰るのである。 
国は、何とか金の工面がつけられるうちに借金依存体質を変えないと財政は破綻することになります。

新たに生まれた資金での消化ができなければ、今ある資産で消化する以外ありません。 つまり“資産のシフト”による消化が必要なのです。 
国がどの程度借金依存を続けられるかは、国公債に替わり得る資産がどの程度あるのかにかかっています。そこで国民経済統計(SNA)2003年度末の資産内容を分析することで国公債にシフトできる部分を分析し、財政問題の逼迫した姿を明らかにします。

国公債に替わり得る資産は、ほとんどすべて金融機関に集まっています。それ以外は、政府の資産を除くと、家計のたんす預金と、企業の金庫の現金ぐらいなものです。 そこでまず公的金融機関と民間金融機関それぞれの金融資産内容を分析することで、資産シフトによる国公債の消化能力はどの程度あるのか推論してゆきます。


4-1民間金融機関の資産シフトによる国公債消化余力
結論から言えば、資産シフトによる国公債消化能力はせいぜい200兆円規模でしかないというのが本論の結論です。
その内訳を以下で説明してゆきます。

まず民間金融機関の資産を見てみましょう。
表8. 民間金融機関の金融資産に占める国の借金部分の推移を示した表です。
民間金融機関の全金融資産は2003年度末で1829兆円、預金・預金・貸出金を除いた金額は782兆円です。このうち国公債の債権部分は、すでに321兆円であり、さらに公債的性格の強い事業債を加えると370兆円となります。
個人の金融資産の純増による国公債消化が困難になった1999年以降、民間金融機関の資産のシフトによる国公債の消化がすでに加速しています。 1998年度末の国への債権残高+事業債残高は216兆円ですが、その後の5年間で154兆円も増えて370兆円となり、割合も47.3%となりました。 民間金融機関の預金・預金・貸出金を除いた資産のうちすでに半分近くが公債と事業債で占められているのです。

表9. は2003年度末の民間金融機関の金融資産内訳です。預金・預金・貸出金と政府債務+事業債を除いた資産を、金額の多い順に列挙すると下記のようになります。


............株式 150.9 兆円
............対外証券投資 108.9兆円
............信託受益権 27.1兆円
............金融債 18.0兆円
............金融派生商品 17.2兆円
............直接投資 17.1兆円
............債権流動化関連商品 12.2兆円
............未収金・未払金等 10.6兆円
............コマーシャル・ペーパー 10.0兆円
............投資信託受益証券 8.7兆円
............証券投資を除く対外債権 8.5兆円
............出資金 6.4兆円
............預り金 6.0兆円
............居住者発行外債 5.4兆円
............企業間信用・貿易信用 5.0兆円


民間金融機関の資産シフトによる国公債消化のほとんどは、上記資産からのシフトとなるわけですが、もし仮に預金・預金・貸出金を除いた資産の中での割合が、3分の二まで国公債債券を買い進めるとすると150兆円、60%までですと100兆円の国公債が消化できることになります。 しかし、民間銀行の債券ポートフォリオで3分の二が公債であるという状況は明らかに異常です。
こう見ると、民間金融機関にある資産で国公債消化とあり得る資産は、せいぜい100-150兆円程度ではないでしょうか。 


4-2.公的金融機関の資産シフトによる国公債消化余力
次に公的金融機関の資産の国公債消化余力をみてゆきます。
表10. は2003年度末の公的金融機関金融資産の内訳表です。
公的金融機関の金融資産総額は969兆円となっていますが、これは預託金が特別融資会計等で再投資されていることで二重計上されているため、膨れ上がった数字です。
多少荒っぽい計算になるが、全金融資産から預託金を引き、その金額に占める国公債残高、事業債、貸出金を足した金額の割合を計算すると93%にもなります。保険・年金の運用資金でさえも国公債と政府関係法人等への融資が85%を占めるのです(ファンド・マネージャーを雇う必要もないのでは……)。 要するに公的金融機関の資産は貸付金を除くと、すでにほとんど可能な限り国公債債権になっているので、貸出金を除いた部分に資産シフトによる新たな国公債消化余力ほとんどないのです。せいぜいあるとしても5兆円程度でしょう。

今後の国公債消化にある程度の役割を果たす可能性があるのが貸出金資産です。
貸出金を引き揚げることで、その資金で国公債を消化することが可能になるからです。
公的金融機関の貸出金は、総額で489兆円ですが、その大部分は財政投融資の資金である融資特別会計(=財政融資資金)の貸付金と、政府金融機関の貸付金で占められています(460兆円)。

政府金融機関とは 中小企業金融公庫、国民生活金融公庫、商工組合中央金庫の総称で、民間の中小企業や、自営業者などに融資をする機関であり、2003年度末の貸出金残高は156兆円となっています。この部分の貸出金は簡単に引き揚げることはできません。
しかしもう一方の財政融資資金(=財政投融資)は、改革を進めることで国交際消化能力を生み出す可能性のある資金です。
財政融資資金は、第二の予算といわれ、国や地方のほかに、住宅金融公庫や、道路公団や、国債協力銀行など、財投機関とよばれる39の法人等に貸付けられています。
官僚の天下り先という事情から関係省庁と馴れ合いの関係となり、採算意識を欠き、事業コストを膨らませ、日本の財政を悪化させて原因の一つ出会ったわけですが、2001年に立法化された特殊法人等合理化計画のあと、毎年の財政融資資金はハイペースで減らされており、また民営化、統廃合、政策コスト削減が進められています。
表11. は2005年2月末時点の財政融資資金の貸借対照表です。 貸付金残高のうち国および地方への貸付を除く金額は176兆円です。 この資金はいずれすべて引き揚げられることになるでしょう。 しかし財政融資資金残高はゼロになっても財投機関債の発行による資金調達に置き換わっただけでは新たな国公債消化能力は創出されません。 財投機関を含む特殊法人等がリストラを進めることで資産圧縮ができた金額だけが新たな国公債消化能力となるのです。
10年程度の期間で3分の一から半分の資産圧縮ができ、すべてが国公債消化に廻るとすると60兆円―80兆円の消化原資が生まれることになります。


4-3.その他の資産の国公債消化余力
金融機関にある資産以外で将来国公債の消化資金になりうる資産として、外貨準備と政府出資金を挙げることができます。

外貨準備高は2003年度末時点で87兆円です(2005年11月末でも84兆円と大差なし)。外貨準備のほとんどは、米国のTB(財務省証券)であり、一気には売れませんが、時間をかけて半分程度まで圧縮すれば40兆円の国公債消化原資を生み出すことができます(実際は主に政府短期証券残高が減少し、民間・公的金融機関の現金が増えることになるが、その資金を全額国公債消化に使うと仮定する)。

次は政府関係機関への政府の出資金です。
2003年度末において国が資本金の2分の1以上を出資している政府関係法人(特殊法人等、清算中の法人を除く)は、127法人あり、政府はそれらの法人に総額48兆円(2003年度末)を出資しています。48兆円の出資金を半分程度まで圧縮すれば、25兆円の国公債消化原資を生み出すことができます。

補足説明: 
財政投融資は、郵便貯金・年金から国(資金運用部)への義務預託された資金を特殊法人等に融資する仕組みでしたが、2001年の財政投融資改革によって義務預託は廃止され、郵便貯金・年金資金は全額自主運用されることになりました。新しい制度の下では、事業に必要な資金は特殊法人等(財投機関)が財投機関債を発行することで、市場で自主調達することを努め、さらに必要な資金は国が財投債という国債を発行し融資します。 これまで論じたように2000年以降、家計はすでに純増資金を提供できなくなっていたのでこの制度変更は、家計に代わる新たな資金供給ルートを確立するためであったとも解釈できます。
財投機関債は2001年より発行が開始され、2005年度での発行予定は5.8兆円です。財投機関の資金調達に占める財投機関債の割合は現状2割程度ですが今後大きな伸びが予想されます。財投機関債は国の借金ではないですが国が債務保証をしているので性格上は国の借金と同じです。
過去の過ちを繰り返さないために、特別会計や、その他の政府関係機関も含めて、各機関、各事業の採算を厳しく監視する必要があり、そのための情報開示やすっきりした、透明度の高い会計報告システムの確立が急務です。


4-4.資産シフトによる国公債消化余力の総額
これまで見てきた、2003年度末の資産シフトによる国公債消化能力を合計すると;


民間金融機関 100-150兆円
公的金融機関 貸出金以外 5兆円
公的金融機関 貸出金 60-80兆円
外貨準備の圧縮 40兆円
政府出資金の圧縮 25兆円


合計で230-300兆円になります。 

ここで2003年度末からの新規政府債券の発行によって、2年間ですでに使われた消化能力を50兆円とすると、2005年度末での国公債消化余力は180-250兆円程度と算出できます。
このレポートでの推論はかなり大雑把であり、+/-数十パーセントの誤差も有り得ると思いますが、しかしこのように見てゆくと、少なくとも今から300兆円、400兆円もの借金を消化できる資産は残っていないだろうことは納得いただけると思います。


5.財政破綻は避けられるか
グラフ1は、国民経済統計(SNA)で見た国と地方の基礎的財政収支の赤字額推移を示したグラフです。 基礎的財政収支は、国公債の利払いを除いた収支であり、毎年積みあがる借金は、基礎的財政収支の赤字額に国公債の利払い金を足した金額となります。
2005年度の、国と地方の基礎的財政収支は、20.5兆円の赤字であり、これに国と地方の利払い金、12兆円を加えた32兆円程度が、2005年度の借金額です。
2006年度のSNA統計はまだ出されていませんが、2005年度予算との比較で見ると、景気回復による自然増収と、定率減税や企業向け減税などの実質増税で国の歳入が1.9兆円増加、国の一般歳出削減額が0.9兆円、地方の通常収支の財源不足改善額が1.8兆円、合わせて4.6兆円程度の収支改善となるようです。
歳出削減よりも税収が増えることによる改善というのが実態ですが、それでもこれだけの改善は喜ばしいことです。 しかしながら借金の増加額は依然として27兆円(32兆円-4.6兆円)もあるわけで、収支改善が一層進まなければ、いずれ財政が行き詰るという状況に変わりはありません。



 

プライマリー・バランス金額は、財政赤字-ネット利払い費により算出された数値。
なお1989年度までは 68SNAベース, 1990年度以降は 93SNAベース。


政府は、2012年度までにプライマリー・バランスを達成するという目標で財政再建を進めています。 しかしプライマリー・バランスの達成は、谷垣財務相が言っている通り“一理塚”でしかありません。これまでに積みあがった借金の金利負担分だけ、財政赤字が増え続けるからです。 
プライマリー・バランスの達成後も同じペースで歳出削減を進めれば、破綻はさけられるかと聞かれれば、金利がある程度上昇すればそれでも財政は破綻すると答えるしかありません。それだけ、これまでに積みあがった借金の山は巨大であり、 それゆえ、日本の財政が破綻せずに済むかどうかは、政府の努力よりも、金利の上昇を抑えることができるかにかかっているとも言えるのです。

表12. は、2006年度の予算案を基点にして、その後の債務増加額が、金利上昇の度合いによってどのくらい変わるのかを簡単にシュミレートしたものです。基礎的財政収支は、国の収支額を使い、金利負担が発生する債務は国と地方の長期債務残高を使い、金利の上昇の想定に、;
A : 現在のレベル程度である1.5%から変化しない。
B : 2006年度に0.5%、2007年にも0.5%上昇し、その後2.5%で安定。
C : 2006年度から毎年0.5%づつ上昇し、3.5%に達した後に安定。
D : 2006年度から毎年0.5%づつ上昇し、4.5%に達した後に安定。
という4つ条件を与えて、それぞれ想定で、毎年の利払い費と債務増加額がどの程度になるかを計算しています。
基礎的財政収支は、2011年度に均衡し、その後均衡が保たれる(さらなる歳出削減・歳入増がない)という数字を入れています。
想定Bでの債務増加額を見れば、基礎的財政収支が均衡しても、金利が2.5%まで上昇すると2015年までの債務増加額の合計が200兆円を超えます。

次に2011年度のプライマリー・バランスの達成後も毎年2.5兆円の収支改善(黒字)が達成され、基礎的財政収支が10兆円の黒字構造になる場合の表(表13. )を見てください。
この場合でも、想定Cの、3.5%まで金利が上昇する試算では、2014年度までに債務増加額の合計が200兆円を超えます。
このように見てみると、財政改革が政府の計画通りに進んだとしても金利がある程度上昇すれば、結局財政は行き詰ってしまう可能性があることが理解できるでしょう。

多少金利が上昇しても財政破綻を引き起こさせないためには、毎年の債務増加額をさらに押さえ込む必要がありますが、そのためにもっとも重要なポイントは以下の二つです。


● 歳出削減を可能な限り進め、その後さらに必要となる原資を消費税率徐々に引き上げて確保する
...... という取り組み方法ではなく、消費税率を一気に引き上げることで利払い費の上昇を押さえ込むこと。

● 高齢化、労働人口の減少のマイナス効果に打ち勝って尚且つ追加的な国公債の消化能力を
.... 創出するために、日本の中長期的な総合経済力・国際競争力を維持・増強することが生死を分ける
.... という解の下に、教育システムをはじめとする日本の底力を育てる改革を最重要課題として進める。


世論は、マスコミも含めて、「歳出削減が最優先であり増税は最小限に留めるべき」 という主張が大勢でしょうし、痛みを伴う激しい歳出削減を進める中で短期的な効果が目に見えない施策に大きな予算を割くことに対する抵抗も強いでしょう。 いずれのポイントも国民感情に配慮した従来の政治手法では、実現が難しいというところに財政問題の本当の難しさがあります。
しかし政府がこのジレンマを克服することができなければ、財政が行き詰まる可能性が一気に高まることになると考えます。


蛇足

日本の財政問題に見る「太郎と花子の構図」
日本のGDPは、世界のGDPの13.6%を占めてます(2001年名目GDP、日本:約US$4.15兆、世界:US$30.5兆)。 そして日本の借金の規模は現在すでに世界のGDPの20%以上という途轍もない金額となっており、もし日本が発展途上国型の破綻(つまりハイパーインフレとその後の長期的な不況を引き起こす破綻パターン)となれば、世界規模の不況を引き起こすことは確実です。
それでは、日本政府がデフォルトに直面した時、IMFやアメリカが助けてくれるでしょうか。
韓国は1997年に大手財閥が次々に破綻したことに端を発し1998年3月にデフォルト寸前の状況を経験しました。 この時は間一髪のタイミングでIMFの支援が決まり最悪の事態を回避することができました。このときのIMF支援金額は歴史上類を見ない大規模なものでしたが、それでも6兆円程度です(US$556億)。
日本の債務規模は桁が二つも違います。もし日本が債務不履行を回避するためにIMFに支援を求めても、日本の債務金額を長期に渡り支払い保証できる資金力はIMFを含め世界中どこにもありません。財政が行き詰まり破綻に向かい始めたら誰も止めることができないのです。

もし財政改善が十分進まず、財政破綻は避けられないという状況となったとき、日本はどのような行動を取れば、そのインパクトを最小にすることができるのでしょうか。 この命題を考えるには、日本の財政問題がこれまでに財政破綻してきた多くの国の財政問題と比較し特異な構造であることを理解しなければなりません。
それは日本の債務は実質的にすべて国内の債務であり、そして債券は全額日本円という自国通貨で発行されているという構造です。
これまでに財政破綻した国々は、ほとんどが海外から借りた海外通貨建ての債務(主にUS$)を返せなくなって破綻しました。 それゆえ財政が破綻しインフレが発生しても外貨建ての債務が目減りすることがないので、インフレも止まらず、不況が長期に及ばざるを得なかったのです。
しかし日本は対外純債権国です。それゆえに日本の財政問題は海外から見れば、いうなれば“他人の家の問題”なのです。

日本の財政問題の“他人の家の問題”という構図を、政府と家計の以外の部門を無視して、例え話で説明してみましょう。
日本太郎は1469万円の資産(家計金融資産1469兆円の例え)を自分名義で持っています。
そして毎月46万円(国の税収46兆円の例え)を家計費として妻の日本花子(政府)に渡しています。
しかし花子はぜいたく嗜好で毎月月末になると11万円ほど(国のプライマリーバランスの赤字)足りなくなり、足りない金額を旦那に内緒で消費者金融から借りていました。 金利だけで毎月9万円(国債金利)も払っているので、月々20万円も借金が増えています。 そしてついにその借金が542万円(国債残高)にもなってしまいました。
とうとう花子は消費者金融から「今後貸せるにしてもあと200万円(国公債の消化余力200兆円の例え)が限界です」と言われてしまいました。 ということはこのままの生活を続ければ10ヶ月(10年)で破産することになります。
とりあえず花子は、生活費を切り詰める努力をするわけですが、予定外の出費が重なりどう考えても自分だけで借金を返すのは無理な状況に陥ったとします。さて、この時、花子はどのような行動を取るでしょうか。 

花子が合理的な判断を下すことができるならば答えはただ一つ、「借金は自分ではもう返せないので助けてくれ」と、太郎に泣き付くことです。
太郎としては、毎月の家計費は十分に渡しており、汗水たらして貯めた自分の貯金を妻の借金の返済に使ってしまうことには耐えられない。 しかし花子が破産したら太郎も信頼を失い失業してしまうので、職を失わず自分の預金を守るには離婚しかない。花子を見捨てるということは、家庭を捨てて一人で生きてゆくことを意味しますが、太郎は愛する家庭を捨てる気にはなれない。 
結局、太郎は致し方なく貯金を切り崩し、花子にとって返済が可能なレベルまで借金を軽減することに同意するでしょう。
もし花子が最後まで借金を続け、破産したら太郎も職を失うので最悪の状況(大不況)となってしまいます。 太郎(国民)が家庭(日本)をすてられないという前提であれば、職を失わず生活を続けるために預金の一部をあきらめることが、太郎(国民)にとっても最良の解決策となるのです。 よって、太郎は花子に「良くぞ打ち明けてくれた!」と言いながら抱き合って話しの幕が下ります。

この太郎と花子の状況を他人(海外)が見れば、家計全体(日本全体)としてはまだ資産があるのだから大した問題ではない、資産担保のない借金(対外債務)で苦しんでいる家計(国家)はいくらでもある、と映るのです。これが、日本の財政問題を海外から見ると“他人の家の問題”であるという「こころ」です。
<実は、他人(海外)は、花子が太郎に打ち明けられずに破産したとき、花子の持っていた宝石や家財道具(日本の各種資産)を二束三文で手に入れてしまうという日本家の悲劇のストーリーもあるのですが、ここでは割愛します。>

“計画的な財政破綻”は、国民から見れば政府の陰謀であり、国民の感情としては受け入れできるものではないでしょう。また実際に政府や、政府機関がこのようなシナリオを想定して準備を進めているとは思えません。 もし仮に政府が“計画的な財政破綻”を実行に移そうと思っても政府は国民の資産を勝手に接収する権利はないので、国会でそのための法律を立法させる必要があり、技術的にも困難です(昭和21年の財産税は、当時の帝国憲法の勅令によって少なくとも表面上は合法的に進めることができましたが、現在の日本の法律には勅令はありません。ただし、課税を伴わない預金封鎖だけであれば、新しい法律を立法することなく実施することは技術的に可能であると思われますが…)。

実際的には“計画的な財政破綻”はフィクションの域を出ないわけですが、しかし、日本の国益(将来も含めた日本国民の利益の総体)を第一義に考えれば、日本の財政が破綻を免れ得ないところまで悪化し、地道な努力による解決が不可能となった状況では、“計画的な財政破綻”により一気に政府債務を減らし、日本経済の混乱を最短にすることが、最善策であることは明らかです。
これから本格化するであろう財政再建の雲行きが、いつかの時点で怪しく感じられるようになった際には、「太郎と花子の構図」を思い出しながら、各省庁や、金融当局や、ヘッジファンドなどの海外投資家の動きを分析されることをお勧めします。

以上


( 2005年 12月 )



資料ソース
本論文の数値的な資料はほとんど、インターネットで公開されている内閣府、財務省、総務省等からの資料に基づいています。 本論で使用した表は、それらのデータから必要な部分だけを抽出したり、再集計したりしています。
その基になっている主なデータは下記 Web Siteで入手できます。

内閣府、平成15年度 国民経済計算(93SNA),特に第二部ストック編
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/h17-nenpou/17annual-report-j.html
財務省、平成17年度政府予算案 http://www.mof.go.jp/seifuan17/yosan.htm
財務省、平成18年度政府予算案 http://www.mof.go.jp/seifuan18/yosan.htm
財務省主計局「わが国の財政事情について」 http://www.mof.go.jp/seifuan18/yosan005.pdf
財務省、平成17年3月財務関係諸資料 http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/siryou/sy_new.htm
財務省、国の貸借対照表(試案)平成14年度版 http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/bs/bs1609.pdf
財務省、外貨準備等の状況 http://www.mof.go.jp/#toukei
総務省、地方財政の状況 http://www.soumu.go.jp/menu_02/index.html